インタビュー

子どもがくれた
新しい働き方、
小さな幸せ。

CASE 1

こうやみほ

甲谷 美帆 さん

(40歳/旭川市出身)

プロフィール

  • 家族構成

    夫+長男(小学1年)

  • 出産年齢

    33歳

  • 勤務形態

    契約社員

  • キャリア

    前職:一般事務(出版社)
       →総合職社員のアシスタント(不動産会社)

  • 勤務先

    三井不動産(株)北海道支店
    三井不動産はオフィスビルや商業施設、ホテルなどの開発、運営までを手がける総合デベロッパーとして街づくりを展開。歴史と未来の融合、環境・緑との共生といった高い次元を見据え、都市の発展に寄与できる付加価値を創造し続けています。
    http://www.mitsuifudosan.co.jp/

「子どもへの愛情」と
「仕事への愛着」のせめぎ合い

―33歳で長男を出産し、1年間の育休を経て職場復帰した甲谷さん。現在は不動産会社のアシスタント職として資料作成や各種媒体対応、社内外の人的調整、ビルテナントの営業などを行っているほか、自社が整備した札幌市北3条広場(アカプラ)でのイベント企画・運営にも携わっています。

「社会に出てからずっと働いていたので、子どもができたからといって仕事を辞めて家庭に入ることは考えもしませんでした。でも実際に子どもが生まれると可愛くて可愛くて!このまま一緒にいたいと思うこともたくさんあったんですが、その一方で、ずっと家にこもって家事と育児に追われている自分って何なんだろう、このまま社会から取り残されていくんじゃないか、と閉鎖感を感じて……子どもへの愛情と仕事への愛着のせめぎ合いでしたね」

―うわぁ、わかるわかる!なんて女性たちの声が聞こえてきそう。それでも多くのお母さんが歯を食いしばって仕事を続けるのは、一度退職してしまうと再就職がとても難しいことを知っているからなんですよね。たとえ職場復帰できたとしても、育児との兼ね合いで元の部署や業務を離れざるを得ない人もたくさんいます。甲谷さんは独身時代から仕事のスキルを高めるために転職を重ねてきましたが、出産や育児に関わらずキャリアを継続できる働き方を考えながら仕事先を探してきたそうです。

夫や友ママ、職場の支えで
「3歳の壁」を乗り越えた!

―1年間の育休が終わり、甲谷さんは子どもを保育園に預けて職場復帰。最初の頃は子どもが毎日のように泣いて追いすがり、「仕事を続けることはこの子のためにならないのではないか」と悩んだこともあったそうです。

「今の職場は育児に理解があって、子どもの病気で急な早退や休みが必要になっても快く応じてもらえたのでとてもありがたかったですね。ただ、仕事で関わるイベントは土日開催がほとんど。夫も出張が多く、子どもを預ける所がなくてイベント当日に立ち会えないことがたびたびあったんです。関係者のみなさんに申し訳ないという気持ちと、自分が関わったイベント本番を見届けられない歯がゆさを感じていました」

―そんな甲谷さんを支えてくれたのは何だったのでしょう?

「夫がよく話を聞いてくれたことですね。つらいこと、大変なこと、困ったこと、とりとめなく話すだけで気持ちがずいぶん楽になりました。夫は出張が多いのですが、家にいる時は寝かしつけを手伝ってくれたり、『僕が子どもを見ているから』と外出させてくれる気配りもありがたかったですね」

―そういえば悩みを誰かに聞いてもらうと、答えは出なくても気持ちがすっきりすることってありますよね。お母さんは日中子どもとふたりっきりで過ごす時間が長いから、やり場のない気持ちに押しつぶされそうになることも多いもの。自分の話に耳を傾けてくれる人がそばにいるだけで安心できるのかもしれません。

「私は育休明けからずっとフルタイムで働いているので、地域のママ友と知り合うチャンスがなかったんです。でも、同じくママになった学生時代からの友だち=「友ママ」がいます。メールやLINEで子育てに関する情報交換をして、ずいぶん助けられました」

―ママになる前から自分をよく知ってくれている友だちは、ママになっても心を許せる大切な存在。子育ての悩みを共有できる人がいるって心強いですよね。そして何よりも甲谷さんを助けくれたのは子どもの成長でした。

「3歳を境に一気に楽になりました。小さい頃は病気が多かったけど丈夫になったし、保育園でたくさんお友だちができて自立心も芽生えたみたいです」

―いま子育てでテンテコ舞いのお父さんお母さん、3歳になるまでの辛抱です!

『育児の原理─あたたかい心を育てる─』
内藤寿七郎(アップリカ育児研究会)

子育て中何度も読み返して心の支えとした大切な一冊。

仕事は効率良く終わらせて、
金曜夜は子どもとデート。

―働きながらの子育ては大変なこともいっぱいあるけど、頑張った分だけ得られるものもあります。

「子どもには大人の論理が通用せず、常に振り回されっぱなし。おかげで以前に比べて自分とは異なる他者を受け入れる器が少しだけ大きくなった気がします。仕事でも『自分がしたい仕事』にこだわるよりも『自分に求められている役割』で職場の役に立とうと思うようになりました。また、子育てしながら複数の家事をこなす経験から、仕事に優先順位をつけて、定時までに効率的に仕事を終わらせる力が出産前よりも身に付いたと思います。」

―子育てで培ったアドバンテージを活かすことで、出産前にはできなかった働き方ができるようになるんですね。母は強し! いま甲谷さんは、今後のキャリアアップを見据えて宅地建物取引士資格の勉強中。家事と仕事と勉強に追われ、週末には疲れがピークに達すると言います。

「疲れきって不機嫌にご飯を作るより、多少手抜きしていてもお母さんの機嫌が良い方が家庭はうまくいくんです。だから金曜の夜は子どもとふたりで外食することに決めてます。行きつけの焼鳥屋さんのカウンターで学校の出来事を聞いたり、テレビの野球中継に見入る子どもを眺めたりしている時がいちばん幸せ。彼が大人になったら一緒にお酒を飲みたいなあ」

―働く女性らしい引き締まった表情がふとやわらぎ、やさしいお母さんの顔になりました。

お仕事熱中グラフ

甲谷家のある1日

\こんなことも聞いてみた/

  • Q

    忙しい毎日、どうリフレッシュしてる?

  • A

    月に一度の全身マッサージ。体がほぐれると気持ちもほぐれて子どもにもやさしく接することができるし、明日から頑張ろうと思える。子どもを見てくれている夫に感謝!

  • Q

    子育て中に使ってよかった施設やサービス、教えて!

  • A

    大型ショッピング施設内の時間制託児ルーム。ゆっくり買い物を楽しめました。 キッズスペースのあるカラオケボックスや個室のある居酒屋、メニューが豊富ですぐ食べられる回転寿しもよく利用しました。チェーン店は子ども向けサービスが充実していてありがたいですね。

  • Q

    あなたにとって「子育てしながら働きやすい職場やまち」とは?

  • A

    ありがたいことに現在の職場に恵まれ子育てと仕事を両立しやすい環境にいますが、前職では子育てしながら働く女性社員の前例が無く、育児休暇の取得について会社との交渉がかなり大変でした。私の周りでも、妊娠を機に退職を余儀なくされたという話をいくつか聞いたことがあります。国が率先して取得させる制度やしくみがあればよいのでは。子育てしながら働く人に寛容な社会になるといいなと思います。 子連れで気軽に出かけられるスポットが都心に増えてほしい。ついでに親の職場も見ることができれば、子どもが親の仕事を知るきっかけになるかも。 近所にこども食堂がほしい。親子はもちろん子ども同士や親同士で交流できるコミュニティが増えれば、子育て世帯の孤立を防げるのでは。

テキスト:佐々木美和 写真:辻田美穂子