札幌で子育て中の皆さん、幸せですか?

再び「ジェンダー」の
モヤモヤを考える

〈前編〉

2023年、gurumiメンバーは「ジェンダー平等」をテーマにインタビューを行いました。あれから2年経ちましたが、正直に言うとメンバーのモヤモヤはまだ晴れません。「ジェンダー」という言葉は浸透しつつあるけれど、ダイナミックな変化は起きているだろうか?このまちで子育てをしながら働く人々は、胸を張って「平等」と言えるだろうか?
札幌市は2002年に札幌市男女共同参画推進条例を制定。これに基づき「男女共同参画さっぽろプラン」を策定し、各部署においてさまざまな施策に取り組んでいます。今回は札幌市男女共同参画課で働く職員の皆さんにインタビュー。ジェンダー平等をめぐる札幌市の実情や課題解決に向けた取り組みについて伺いました。

札幌市市民文化局
市民生活部 男女共同参画室
男女共同参画課

課長   青田 直子さん
推進係長 石崎 明日香さん
推進係  本條 琢也さん

男女共同参画課とは

猪熊 まずは男女共同参画課の概要について教えてください。

青田 男女共同参画課には現在8名の職員が所属し、札幌市男女共同参画センターと連携しながら業務に携わっています。具体的には1999年に施行された法律「男女共同参画社会基本法」に基づき、ジェンダー平等や女性活躍、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みをはじめ、性的マイノリティの方々への支援など人権に関する啓発活動、DVや性暴力などの被害に遭って困難を抱える女性への支援などを行っています。 男女共同参画社会基本法は「男女の人権の尊重」を基本理念としています。でも現実には役職者や管理者をめざす女性の頭を押さえつける「ガラスの天井」、貧困から脱したいけど女性特有の事情で足を取られる「べたつく床」が今なお残っているのが実情です。これらの問題は別々の問題のようでいて、実は「男女の人権の尊重」の観点でつながっています。こういった問題を行政として考え、支援に取り組むのが当課ということになります。

石崎 男女平等とか女性活躍が話題に上ると「すでに女性は活躍しているじゃないか」「むしろ女性の方が早く昇進してるんじゃない?」という声を聞きますが、その背景を少しご紹介したいと思います。 日本のジェンダーギャップ指数が世界の中でも低いことは、なんとなく知っている方も多いかもしれません。ジェンダーギャップ指数とは男女の格差を可視化するために世界経済フォーラムが定めた指標で、「政治」「経済」「教育」「健康」の4分野から算出されます。日本は教育・健康の指数はまあまあ良いんですが……。

猪熊 わっ、政治参画指数がメチャクチャ低い!

石崎 政治参画と経済参画は世界のなかでは平均以下で、全体の順位としては2024年は146カ国中118位です。よく指摘されるのは、女性管理職比率や国会議員(衆議院議員)の男女比が低いことでしょうか。

猪熊 国内のジェンダー平等に関するデータはあるんですか?

石崎 上智大学の三浦まり教授等が立ち上げた「地域からジェンダー平等研究会」が都道府県版のジェンダーギャップ指数を算出・公表しています。こちらは「政治「経済」「教育」「行政」の4分野から算出していますが、北海道は経済・教育・行政の3分野が最下位で、総合最下位です。一例ですが、北海道には女性議員が0〜1名という自治体が179市町村中97あるとのことですが、道内外の民間団体で女性議員を増やそうとする動き※も起こっています。
※ 参考:政治分野における男女共同参画の推進に関する法律

猪熊 なるほど。では札幌市のジェンダーギャップはどんな状況なんでしょうか。

石崎 北海道の中心都市である札幌市は女性の人口割合が高いまちですが、女性の有業率が政令指定都市のなかでも低いです。データを見ると、札幌市の女性は出産時期に有業率が下がっているほか、女性の半数以上が非正規雇用で働いていたり、家事や育児の時間に男女間で大きな差があることがわかります。

猪熊 手元にある資料を見ると30〜40代の女性の有業率がM字型に落ち込んでいて、結婚ないし出産の時に退職していることが見て取れますね。自ら希望して退職したのか、ほんとは働きたかったけど諦めたのか、事情はそれぞれだと思いますが……。 札幌市は30代の男性の労働時間も全国平均より長いんですね。残業が多いということでしょうか。男性が定時で帰れれば保育園や学童のお迎え、家事などを夫婦で分担できるのに、そこがうまくいかずに女性が仕事を諦めてしまうケースも多いのではないでしょうか。

青田 私は当課に配属されるまで、女性活躍とかジェンダー平等を意識したことはありませんでした。市職員の私でさえこういう状況ですから、市民の皆さんも意識される機会は少ないのではないでしょうか。私もこの1年でいろいろ勉強してこういった課題を知る中で、男女共同参画の現状を多くの方が理解して、みんなで意識を変えていかないと社会は変わらないと実感しました。

本條 私も青田課長と同じです。女性の管理職を増やす動きは当然理解していましたが、当課に配属される前は、「ポストの数は変わらないのに多くの女性職員が昇進できていいなあ……」と内心モヤモヤしていたのも事実です。でも今は、そもそも今まで男性管理職が多かった=女性が昇進するチャンスが少なすぎたと理解できます。私も含めて、管理職の大半を占めていた男性が女性と同じ目線に立つには「そもそも」を理解しなければいけないし、そのためにもまずは知ってもらうための啓発が重要だと思っています。

誰もが自分らしく

猪熊 先日保育園にお子さんを預けている方から聞いた話ですが、販売職として働くお母さんが育休明けに時短勤務で復職。売場リーダーを務めていたものの、退勤後や休日にも売場スタッフからの電話が止まず、育児もままならなくなって内勤に異動したそうです。間もなく、勤務先の経営のスリム化に伴ってパート社員のリストラが始まり、時短勤務の自分もそうなるのではと不安を抱えているとのこと。好きだった販売の仕事を諦めた上、会社の中でも居場所を失いかねないなんて、女性活躍に逆行しているのではと疑問に思いました。

石崎 ああ!その方の気持ちがわかります。ただ一生懸命仕事したいだけなのに、何かを諦めてモヤモヤを抱え続けるのは不本意なことですよね。札幌市役所内部もそういう声に応えて少しずつ変わろうと、女性職員がホンネを語り合えるSNS上の交流サロン「ココサロン」や、育児中の職員でも、新たな業務分野に挑戦できる機会を創出するため、人的措置を含めたキャリア支援を行う「キャリアサポート制度」等、様々な取組が始まっているところです。

本條 さまざまな企業の方からお話を聞くと「出産した人は営業職から内勤に異動するのが当たり前」という職場もあるようで、会社としての育児支援制度はあっても現場の実態が伴わないケースは少なくないようです。店舗やチームを仕切るリーダーや管理職の理解、また、制度を利用しやすい職場の雰囲気づくりなどもあわせて必要かもしれないですね。

石崎 企業の皆さんに男女共同参画推進を働きかけることも当課の役割です。そのため、例えばワーク・ライフ・バランスと女性活躍に取組む企業を認証し、応援する「ワーク・ライフ・バランスplus企業認証制度」を運用しているほか、札幌駅北口にある男女共同参画センターでは女性リーダーを養成する研修や企業向けの出前講座といったものも行っています。そのほか、子どものうちから男女共同参画の意識を養ってもらいたいという思いから、学校の授業などで活用していただけるパンフレット「みんなの個性が輝く街へ」も配布しています。

青田 男女共同参画社会とは男女を問わず、誰もが自分らしく幸せに、自分らしく活躍できる社会であり、男女共同参画推進とは男女平等を叫ぶというより、みんなが幸せに生きるためにできることを一緒にやっていこうとすることだと思うんです。今の大学生ぐらいまでは学校での名前の呼び方が統一されていたり、制服も選べるようになってきていたり、生徒会長や大学の学生自治会長などが女性ということも珍しくなくなってきていて、男女差をあまり意識していないように感じます。でも私たちはジェンダー不平等が根強く残る世代であり、同世代には組織のトップや経営層に就く人もたくさんいます。だからこそ企業における風土の改革への働きかけと、次代を担う子どもや若者の意識醸成を継続していく必要があると考えています。

石崎 第5次男女共同参画さっぽろプランの冒頭にも「ジェンダー平等に向けた意識の改革が最重要」と明記されています。まちのみなさんが少しずつ意識を変えていくことで行動が変わり、人間関係が変わり、職場や社会が変わっていく。意識を変えるって一番難しいけれど、そこを伝えていくのが男女共同参画課の役割だと自負しています。

テキスト:佐々木美和 写真:辻田美穂子