札幌で子育て中の皆さん、幸せですか?
〈後編〉
札幌市男女共同参画課で働く職員の皆さんへのインタビュー。前編ではジェンダー平等をめぐる札幌市の実情や課題解決に向けた取り組みについて伺いました。後編ではgurumiメンバーをはじめとする子育て世代が「ジェンダーのモヤモヤ」を解消するためのヒントを探ります。
札幌市市民文化局
市民生活部 男女共同参画室
男女共同参画課
猪熊 石崎さんは現在係長職として活躍されていますね。子育てをしながら昇任を目指すのは大変なことも多かったのではないでしょうか。
石崎 札幌市の係長試験は大卒の場合基準日時点で入庁7年6カ月目(※前職経験がない場合)以降の職員が受験可能です。全員ではないかもしれませんが、女性職員はキャリアアップのモチベーション維持につまずくことがあると感じています。私の場合は出産を経て育休復帰後の数年間が一番悩んでいました。部分休業の限られた時間で、一言、二言の雑談すらせずに機械のように仕事をしていた私のことを「怖い人だと思っていた」と別部署にいた同僚から数年後に告白されたことも。夫の家事育児力がかなり高く、サポートしてもらっていても、仕事と家事と育児で時間制限のあるレースを走り続ける日々。どうやって昇任試験の勉強をしたらいいのか、そもそも上を目指すことがいいのかどうか苦悩していました。しばらくしてから、私以上にキャリアについてもっと悩んでいる仲間が女性だけでなく男性もかなりいることがわかりました。私の子どもがもし将来市役所に入ったとして、自分や仲間が感じたモヤモヤを感じることになるのは嫌だなと思うんです。子ども世代がのびのび働ける環境をつくるために、今できることをしたいですね。
猪熊 次世代の職場づくりを見据えた具体的な取り組みがあれば教えてください。
石崎 前編でもご紹介したワーク・ライフ・バランスplus企業認証制度では、認証取得企業のPR等の支援も行っています。育児休業等を取得した従業員がいる認証取得企業に対し、一定の条件を満たした場合に助成する制度もありまして、なかでも男性従業員が育児休業を初めて取得した際に助成金が出る制度はよく利用されています。 働くことの両輪となるのが家事・育児ということで、札幌市で作成した家事・育児シェアがテーマの「Smile Sharing Book」という冊子シリーズや動画を活用した啓発を様々な形で行っています。 札幌市役所内部の独自の取組としてご紹介したいのが、私も所属している子育て中の職員有志でつくる「おやまな部」というグループです。子育てしながら働いていると感じるさまざまな悩みや困り事について必要な情報が入手できなかったり、ネットで調べてもよくわからないことも多いもの。そこでお互いの体験を共有して情報交換できる場をつくろうと立ち上がりました。 同じような悩みを持った人がつながり、思いを吐き出して共有したりノウハウをまとめたりすることは、自分の子育てには間に合わなくても次世代の役に立つと思うんです。おやまな部は子育てにまつわる孤独感や不安感、言葉にならないモヤモヤとかを吐き出せる場として、子育て世代にとってのよりどころになっています。
石崎 おやまな部では子育て中の市役所職員向けに小冊子も制作・発行しています(※対外的には公表していません)。最新作は出産までの準備や男性の育休、子育てを見据えた住宅選びや引っ越しなど、さまざまな不安に応える「プレパパママ応援Book」でした。他にも業務時間外に座談会や勉強会、昇任を目指す仲間を応援する活動も行っています。
猪熊 仕事も子育てもしながら時間外活動まで!働きながら子育てしていると次々に課題が出てくるから、第2子、第3子を身ごもった時には過去にどうやって課題解決したか忘れちゃうんですよね。こんなふうにたくさんの人々のノウハウが蓄積されているツールはとても良いなと思います。家事シェアにも言及されていて、男性への意識喚起にもつながっていそうです。
石崎 前半の男女共同参画についても同じことだと思うのですが、社会でも家庭でも「現状を知らないと何も始まらない」。家庭の場合、家族だからこそ冷静に話し合えないこともあるし、片方だけでなく両方がモヤモヤを感じているけど口に出せていないこともある。そういう時に私たちが作ったパンフレットを見ながら話し合っていただくことで、現状の見える化やお互いに納得感のあるパートナーシップにお役に立てるかもしれないと思っているんですよね。
本條 普段から家庭内でコミュニケーションを取って意思共有を図り、パートナーシップを築いていくのがベストだと思うんですけど、生活時間が合わなかったり、うまく言語化できないこともありますよね。そういう時に役立ちそうなツールが民間でもあるようです。たとえば「ヨメーター」※というツール。プリントアウトして冷蔵庫の扉などに貼り、その日の体調や気分をマグネットの場所で表してパートナーに知らせるというものです。
※子育て夫婦の実体験をもとに、㈱アイナロハでデザイン化
猪熊 海外ドラマなどでは夫婦やカップルで意思共有する手段としてカウンセリングを利用する場面があるんですけど、札幌市ではそういう取り組みはやっていないのでしょうか。
青田 各区役所に家庭生活相談窓口を設けていますが、夫婦間のコミュニケーションだけでなく家庭内のお悩みを相談する場として利用されているようです。 また、札幌市では2021年から、女性活躍や男性の家庭参画、LGBT、DV防止などさまざまなテーマに基づくセミナー「#SAPPORO DIVERSITY FORUM」を毎年9〜2月に開催しています。こうした機会を利用して、パートナーと一緒に考えたり、話し合ったりしていただければうれしいですね。
猪熊 子育てに関するサポートや情報ツールは男女のカップルを想定したものが多いけど、実際の子育ては多様性に富んでいますよね。男性同士や女性同士のカップルがいたり、夫婦にお姑さんが加わったり。実家が遠い人は近所のお友達に頼ったり、支援サービスを活用したり。でも、みんな自分らしく働ける毎日をつくりたいという思いは同じなんじゃないかなと思うんですよね。
石崎 そうですね。例えば、「キャリアアップしたいけどパートナーが単身赴任またはワンオペだから頼れない」「パートナーの転勤で仕事を辞めて札幌で子育てを始めた」等、さまざまなバックグラウンドがあります。中にはキャリアをうまく生かせず埋もれてしまったと感じている人もおられるのではないかと思います。そこで働き方の選択肢が変わったり増えたりすることで、再び自分が望む一歩へ踏み出せるかもしれないですよね。札幌市では働きたい女性をサポートする相談窓口「ここシェルジュSAPPORO」や多様な働き方を応援する女性のためのコワーキングスペース「リラコワ」を設置しています。 働くことは、社会とつながる手段の一つ。社会とつながることは自分が安心できる場所を持てる、みつけるということでもある。もちろん家庭や地域で自分の力を存分に発揮している方もたくさんいる。それでも何かのはずみで均衡が崩れると、誰でも不安定になってしまうことがある。労働と家庭、制度という3つの安心を得られることは、生活だけでなく精神的にも大事なことだと思います。
猪熊 本條さんのご家庭も共働きしながら二人のお子さんを育てているそうですね。
本條 私は石崎係長とペアで仕事をしているんですが、石崎係長や私の配偶者の業務の繁忙度合や家族の体調悪化についてはシェアしています。私の妻が忙しい時期は私が定時で帰って家事ができるよう業務を調整してもらったり、「子どもが最近ちょっと風邪気味で」とか事前に共有しておくと、仕事の優先度を考慮して役割分担してもらえるので、急に熱を出しても業務に支障が出ずに済みます。
猪熊 家庭の状況を職場に共有することで、業務の属人化を防ぎながらみんなが安心して働けるようになるんですね。家庭の話を職場にシェアするのは、信頼関係があってこそだと思いますが。
石崎 私自身も、本條さんに安心して話してもらえる上司じゃないといけないと意識しています。そこは青田課長の人柄と組織運営の考え方が職場の雰囲気にとても影響していると思いますね。
青田 男女問わず職場のコミュニケーションは必要ですよね。職員同士が互いを思いやって仕事がうまく回っていくよう、風通しのいい職場づくりに努めるのは管理職の役目ですし、そういう職場が増えていけば、家庭も仕事も両立しやすくなるのではないかなと思います。
猪熊 男女共同参画課で働く8名の皆さんも、ジェンダー平等に向けた努力をそれぞれ実践されているんですね。皆さんの取り組みが課から庁内へ、まち全体へと広がり、私たち市民もジェンダー平等を実感できる日が来ることを願っています。本日はありがとうございました。
テキスト:佐々木美和 写真:辻田美穂子