インタビュー

デザイン。家族。
「好き」と一緒に
生きていく。

CASE 2

あだちしおり

足立 詩織 さん

(33歳/札幌市出身)

プロフィール

  • 家族構成

    夫+長女(小学2年)、次女(5歳)

  • 勤務形態

    フリーランス

  • キャリア

    札幌市立高等専門学校(現札幌市立大学)視覚コース卒業。札幌市内のグラフィックデザイン事務所に4年間勤務。2009年に退社、結婚。2011年1月「Shiori Graphic」設立。

  • 勤務先

    「Shiori Graphic」アートディレクター
    「心揺さぶる楽しいクリエイション」をキーワードに、企業のブランド開発(CI、VIの企画、制作)や広告企画および制作、グラフィックデザイン関連の商品開発、ウエディングにまつわるペーパーアイテムなどを手がけています。
    https://www.shiori-g.com/

実家で過ごす次女を出産したばかりの足立さん。

仕事と子育てを分けられない。
フリーランスゆえの悩み。

―フリーランスのアートディレクターとして広告の企画や制作、グラフィックデザインや企業ブランディングなどを手がける足立さん。今回は自宅を兼ねたアトリエにお邪魔しました。玄関を入ってすぐにアトリエスペース、その奥が自宅スペースというユニークな空間です。

「5年前、自宅として中古マンションを購入した際に、子育てと仕事が両立しやすいよう、自宅と仕事場をひとつにしてしまおうと、アトリエも含めてリノベーションしたんです。それから4年経ち、スタッフも仕事量も増え、スペースが足りなくなってました。そこで長女が小学校に入学するのを機に、家のそばに事務所をもう一箇所構えたのですが、それが自分のライフスタイルに合わなくて。 自宅で仕事をしていれば、長女は小学校から真っ直ぐ帰ってきてお友達と遊ぶ時間も持てていたのですが、児童会館に毎日預けっぱなし。行きたくない日も行ってもらわなければならず、長女の心が沈んでいた時期がありました。放課後くらい、めいいっぱい自分の時間を楽しんでもらいたいのになとジレンマを感じていました。また、仕事面では、私は17時で切り上げて次女の保育園のお迎えをしそのまま帰宅していたんですが、スタッフが夜遅くまで残業しているのではと気を揉んでばかり。「これはちがうな」と判断し、すぐに自宅アトリエに仕事場を戻しました。少々手狭でプライベートも何もないですが、今の私にはこういう隔たりのない空間で日々の活動をする事が合っているんだと実感した経験です」

―この日もリビングで次女が遊ぶ傍ら、壁ひとつ隔てたアトリエでふたりの女性スタッフが黙々とパソコンに向かっていました。子どもにもスタッフにも目配りできる仕事環境、うらやましい気がします。

「ここに至るまではいろいろありましたよ!長女を出産後1年ほど自宅で仕事しながら子育てしていたんですが、ほんとうに大変でした。独身時代は自分でスケジュール管理できたけど、赤ちゃんにはスケジュールなんて関係なし。それでも〆切は守らないといけないので、授乳しながら夜中までパソコンに向かうのは日常茶飯事でした。夫は私がデザインの仕事が好きなことを知っているから子育てにも協力的だったけど、私は仕事や趣味の時間を自分で配分できる夫がうらやましくて。コンビニに漫画の立ち読みに行くのすらイライラしてました(笑)」

フリーランスの人は自宅で働きながら子どもの面倒を見られるのでは?と思われそうですが、四六時中子どもと一緒なので、むしろ仕事に集中する時間を確保するのが難しいんですね。

ひとりで頑張らなくていい。
気づいた時、
働き方と子育てが変わった。

―デザインの仕事が大好きだからこそ、思い通りにならない現実と葛藤しながら頑張ってきた足立さん、ある日徹夜明けで公園に行こうとして、半分意識を失いながらベビーカーを押している自分に気づいて愕然としたそうです。

「もし自分に何かあったら子どもはどうなるんだと。お母さんになることって、自分の体が自分だけのものじゃなくなることなんだと痛感しました」

―ひとりで頑張るのは限界と気づいた足立さん、母校の恩師に相談したところ、アシスタントとしてひとりの学生「坂田亜沙美さん」を紹介してくれました。この出会いが足立さんの働き方も子育ても大きく変えていくのです。

「アサミちゃんは、打ち合わせの間に子どもを散歩に連れて行ってくれたり、ぐずるとあやしてくれたり。次女の出産入院中も仕事がストップしないようにフォローしてくれたし、何度助けられたかわかりません。最近は他のスタッフや社外のパートナーさんたちにも助けてもらいながら作業を分担できるようになり、私は企画やアイデアを練る時間を確保できるようになりました。今は以前よりゆとりある働き方ができていると思います」

―仕事も子育てもひとりで頑張らなくていい。そう思えたことは、足立さんにとって大きなターニングポイントだったのではないでしょうか。そして核家族化が進む昨今、家族以外の人に見守られて子どもたちが成長していけるとは、なんと幸せなことでしょうか。大好きなデザイン。愛おしい家族。信頼できるスタッフ。すべてがひとつにとけあう場所、それが「Shiori Graphic」なんですね。

私を認めてくれる
家族がいるから、
安心して仕事と向き合える。

―フリーランスである以上クライアントとのお付き合いは不可欠。足立さんはどのように対応しているのでしょう?

「広告の仕事は〆切を守って最良のアウトプットをしていれば、クライアントの信頼を得れると思っていましたが、仕事を見ずに「ワーキングママ」というだけで冷たくされた経験もありました。母親である事がクリエイターとしてマイナスだとは全く思いませんが、理解を得るために、時にはおもちゃが転がる自宅のアトリエで打ち合わせをすることもあります。むしろ子育て中の状況をクライアントに知ってもらった方が安心してコミュニケーションを取る事ができます」

―足立さんが手がける大切な仕事のひとつに、ブライダルプランナーとのコラボレーションによるデザインワークがあります。結婚式の招待状や会場を彩るペーパーアイテムは、幸せに満ちた未来への道しるべ。家族になる幸せを知っている足立さんならではの仕事と言えるかもしれません。  広告業界は時間が不規則になりがちですが、足立さんは出産後「17時以降は仕事の電話をしない」と決めました。するとクライアントも配慮してくれて夜は電話を寄越さなくなったと言います。もちろん仕事に支障はありません。

「昔はデザイナーとして認められたくて自分を追い詰めるように働いて、ダメ出しされると自分が否定されたように感じて傷ついていました。でも、今はデザイナーの自分だけじゃなく、お母さんの自分もいる。無条件で私を認めてくれる家族がいるから、安心して仕事に向き合えるようになりました。私、自分の仕事や作品を家族に見てもらうのが好きなんです。デザイン展に展示された作品を家族で観に行って『これママがつくったんだよ』って言って、冷やかされたりほめられたりするのがすごく幸せ!」

―次女を抱っこしながら笑う足立さん。この先「Shiori Graphic」がどんなふうに成長していくのか、楽しみです。

お仕事熱中グラフ

足立家のある1日

\こんなことも聞いてみた/

  • Q

    忙しい毎日、どうリフレッシュしてる?

  • A

    たまにすごーく高いチョコレートを買います。夫に内緒で。

  • Q

    子育て中に使ってよかった施設やサービス、教えて!

  • A

    赤ちゃんが泣いてもおしゃべりしてもOKの映画イベント「ママズシネマ」!周りに気兼ねせず映画を観たのは久しぶりで楽しかったです。  百貨店のキッズフロアにあるベビールーム。ここでアサミちゃんに子どもを見てもらっている間に打ち合わせに行くことができて助かりました。

  • Q

    あったらいいなと思う施設やサービスは?

  • A

    保育士がいる託児スペースが中心部にもっと増えればいいと思います。大事な打ち合わせなのに子どもを預けられない時、切実に思いました。   路面凍結する冬、歩き始めたばかりの子どもは危険なので抱っこして移動するのが大変なんですよね。子どもが自由に歩き回れるスペースが中心部にあれば親も子もひと息つけるはず。ベビーカーのシェアリングサービスがあれば助かるお父さんお母さんは多いのでは?冬タイヤのベビーカー。北海道には必要だと思います!

テキスト:佐々木美和 写真:辻田美穂子