インタビュー

ワーキングマザーになって気付いた、
「価値観の違いを認める」ということ。

CASE 4

ほしのりこ

星 紀子 さん

(34歳/札幌市出身)

プロフィール

  • 家族構成

    夫(獣医師)+長男(5歳)+長女(2歳)

  • 勤務形態

    契約社員(保健師)

  • 勤務先

    株式会社グランビスタ ホテル&リゾート 札幌グランドホテル

―星紀子さんは札幌グランドホテルの医務室に勤務する保健師。ホテル従業員の健康診断の準備や健診後の保健指導を中心に、健康管理や医療機関に関する相談、ケガの応急処置、ストレスケアや休職からの復帰支援などを一人で行っています。「学校の保健室みたいなものですね」と笑う星さん。うん、確かに。柔和な笑顔とさばさばした雰囲気が、優しくて頼りがいのある保健室の先生を思い起こさせます。

働くママの視点を
職場と共有し、
子育てしやすい就業環境に。

「大学で看護師と保健師の国家資格を取得し、看護師として大学病院とクリニックに勤めたのち結婚。長男が1歳の時に現在の職場に就職しました。看護師は土日出勤や夜勤もあるけど、保健師は定時で帰れて土日も休みなので子育て中でも働きやすいんです。ここでは通常は9時〜18時勤務のところ、現在は10時〜16時40分の時短勤務をさせてもらっています。
この春夫の職場が変わり、前の家だと通勤時間が長くなって子どもに全然会えなくなるので、職場の近くに引っ越しました。保育園は転園できないので地下鉄で通うことになったんですが、朝のラッシュ時に子ども2人乗せるのは無理だと思い、職場に相談したんです。いざとなったら仕事を辞めてもいいやという気持ちで。すると時短勤務を提案してもらい、ラッシュを避けて楽に登園できるようになりました。長女の出産時にも産休・育休を快く了承してもらって助かりました」

―子育てにとても理解のある職場なんですね。

「ホテルはシフトが不規則で体力を必要とする仕事も多いので、今までは女性従業員が妊娠を機に退職するケースが多かったのですが、最近は調理やマネージャークラスでも産休・育休を取得して仕事を続ける人が増えています。私も女性従業員から出産後の働き方について相談を受けることがあります。
不規則な仕事や多忙な管理職でも働き続ける女性の前例ができることで、後に続く女性たちにも『子どもを産んでも仕事を続けられる』という意識が芽生え、職場そのものも働きやすい環境に変化していくのかもしれませんね。もちろん周囲の支えは不可欠でしょうけど」

―職場に対して「これまでの条件では仕事を続けられない」とはっきり言えたのは「ここじゃなくても仕事はあるさ!」と思い切れる有資格者の自信もあるでしょうが、職場に意見を言いやすい風通しの良さもあったかもしれません。働く人が自分のキャリアビジョンを持つこと、職場が働く人の意見に耳を傾けること。これらが両輪となった時、みんなにとって働きやすい職場のあり方が見えてくるような気がします。

家事に協力しない夫を変えるには?

―共働き夫婦にとって家事分担は大きな課題です。星さんのお宅はいかがでしょう?

「私たちの世代は母親が専業主婦だった家庭が多く、夫も家のことはお母さんが何でもやってくれる家庭で育ちました。そのせいか、私が働きながらすべての家事を一人でやるのは無理だとなかなか理解してもらえませんでした。夫はせいぜい子どもに朝食を食べさせるくらいで、たまに早く帰ってきたから家事の手伝いを頼むと「そんなことをやるために早く帰ってきたわけじゃない」と言われたり、部屋は散らかしっぱなし、食べた食器は置きっぱなし……「これ誰が片付けるの?」って、もう何百回もキレました(笑)。掃除や食器洗いは歯磨きと同じで、やるのが当たり前だから!って。
見えない家事ってあるじゃないですか。子どもの帽子にゴム紐を付けるとか、保育園の持ち物を用意するとか。同じことを夫にやれとは言わないけれど、そのほとんどを女性がやっていることには気づいてほしいんですよね。夫の職場は独身男性が多くて、女性の家事負担を指摘する人がいないのも腹が立ちます!」

―あらら……それ、解決策は見つかりました?

「何度も何度も言い続け、最近ようやく自分のことは自分でやったり、少しずつ家事を手伝ってくれるようになりました。私のやり方と違うので気をもむこともありますが、そこはぐっとこらえて言わないようにして(笑)。息子は夫の姿を見ているので、きっと自分のことは自分でやる大人に育ってくれるのではないかと期待しています」

―夫婦はもともと他人同士。他人同士が生活を共にし、互いの価値観を理解し合うためには、思っていることを口に出さなくては伝わりません。「忙しいのに夫が察してくれない」と嘆くより、やってほしいことを具体的に伝えてみてはどうでしょう。時にはぶつかり合うこともあるけれど、ぶつかることで互いの角が取れてしっくりなじむもの。夫の姿は息子の未来の姿です!

職場も家庭も価値観はさまざま。
夫の気持ちが少しわかった。

―専業主婦の母に任せきりの世代から、働く母と支える父のもとで自立する世代へ。ご主人の変化によって星家のパラダイムシフトが起こるかもしれませんね。

「夫だけじゃなく、私も変化した部分があると思います。夫からはよく『自分の価値観がすべてだと思わないで』と言われるんですよ。『部屋が汚いと思うのはきみの価値観で、僕にとっては十分きれいなんだ。僕がきみの価値観に合わせているんだから、きみも少しは歩み寄ってくれ』と(笑)。最初は全然歩み寄るつもりはなかったんですけど、最近は少しだけ夫の気持ちもわかるようになってきました」

―仕事、子育て、自分自身。今後のビジョンを教えてください。

「子どもが小学校に上がったら家で迎えて宿題を見てやりたいという気持ちがあり、仕事を続けるかどうか迷っています。看護師と保健師の資格を持っているので、ここを辞めても仕事は他にもあるだろうから、子どもに手がかからなくなったらまた働こうと思うかも。キャリアが分断しても別の職場で活かせる資格は心強いですね。自分の時間ができたらもう一度看護師として勉強したり、興味のある講演会とかコンサートとか、お金も時間も自分のために使いたいなあと思います。子どもにはとにかく普通に育ってほしい。たとえ道を踏み外しても人に迷惑をかけずに、自分なりの生き方を見つけてくれればいいと思っています」

星家のある1日

\こんなことも聞いてみた/

  • Q

    男の子と女の子のきょうだい。大変なこと、よかったと思うこと、ありますか?

  • A

    二人連れて歩くと目配りが大変でストレスが溜まります。どっちか一人なら楽だし可愛いんですけど。男の子と女の子で遊び方や興味の対象が違うし、下の子は上の子の真似をしたがるので交わって遊べないですね。たまに一緒に遊んでいても最後は喧嘩になっちゃう。
    そうは言っても、二人で遊んでるのを見ると可愛いなあ、二人産んでよかったなあと思います。お兄ちゃんがいない時に妹が寂しがっている姿を見るといじらしくなりますね。

  • Q

    ママ友との付き合い、どうしてる?

  • A

    ママ友は作りません。子どもを通して付き合うと「◯◯ちゃんのお母さん」になってしまうのが嫌だから。個人的に興味がある人と“星紀子”として付き合えればいいと思っています。
    託児サービスを利用して料理教室やハンドマッサージなどの女性向け講座を利用したことがあるんですが、「お母さん」ではなく「星さん」として接してもらえてすごく楽しかった!女性を対象とした講座やセミナーでは、託児サービスを積極的に導入してほしいと思います。

  • Q

    リラックス法を教えて!

  • A

    朝4時に起床して新聞を読んだりストレッチしたり、自分のためだけに使う1時間。保育園のお迎えに行くと一心に走ってきてくれる娘の可愛い姿(息子は遊びに夢中)。夕食後に淹れるコーヒーの一口目。子どもたちに囲まれて眠りに落ちる瞬間。

  • Q

    あったらいいなと思う施設やサービスは?

  • A

    雨の日や雪解けの時期に遊べる場所があるといいな。思いきり走り回れる体育館とか、無料で遊べる施設があると助かります。
    病院の待ち時間が大変なのでなんとかならないかな。小児科は事前予約できることが多いけど、一般の耳鼻科に通院していた時は予約システムがなく、子連れで何時間も待つのがつらかった。

テキスト:佐々木美和 写真:辻田美穂子