仕事と子育ての両立に立ちはだかる「小1の壁」を乗り越えるヒント

児童会館ってどんなところ?

「子どもが小学生になると手がかからなくなる」と言われますが、手がかからなくなる=働きやすくなるとは限りません。小学校に上がると放課後や長期休暇があるため、保育園に預けていた頃よりも仕事と子育ての両立が難しくなることが多く、いわゆる「小1の壁」に悩む方も多いのです。gurumiでは、先日「小1の壁」に関するアンケートを行いましたが、未就学児のママ・パパからの疑問や嘆き、在学中の先輩達から就学後の悩みや意見を多数いただきました。
そこで小学生の放課後の居場所を確保し、働くママ・パパの「小1の壁」を解消する選択肢として考えてみたいのが「学童保育」。学童保育には公立施設と民間施設がありますが、今回は札幌市が開設している「児童クラブ」に着目。北東白石児童会館の栗田孝弘館長にお話を伺いました。

栗田 孝弘さん

北東白石児童会館 館長

1974年生まれ。札幌の保育系専門学校を卒業。平成9年に当財団へ就職し、勤労青少年ホーム(現若者活動センター)に配属。主に若者支援のジャンルに取り組む。イベント企画運営、野外活動なども取り組み、現在は北東白石児童会館に勤務。3児の父。

子どもたちを
誰ひとり取りこぼさない

「児童会館」は札幌市内の中学校区ごとに1館以上建っていて、誰でも自由に利用できる施設です。北東白石児童会館では概ね校区内の子どもが利用していますが、要望に応じて特別支援学校やインターナショナルスクールの子どもを受け入れている会館もあります。また小学校内に設置されている「ミニ児童会館」があります。
児童会館では午前中に乳幼児とお母さんの交流の場「子育てサロン」を開設しているほか、多目的ホールを地域住民のスポーツ交流の場として開放しています。また、児童会館(ミニ児童会館と一部の児童会館を除く)では週2回、中・高校生の居場所づくりを目的として、18時以降利用ができる「ふり➝たいむ」も実施しています。
「児童会館の目的は青少年の健全育成を図ること。だから小学生はもちろん中・高校生も含めて誰も取りこぼさないように受け入れています」と栗田さん。
「札幌市では1949年に日本初の公設児童会館『中島児童会館』が開設されたのを機に、市内各所に児童会館が増設されていきました。70年代以降は共働きやひとり親などの留守家庭児童対策が社会的課題となり、放課後の子どもの居場所としての役割が大きくなっていきました。近年は多世代交流を創出する地域コミュニティの核として機能していくことが期待されています」。
なるほど。「児童」と名は付いていてもいろいろな世代が利用できる、地域にひらかれた施設なんですね。

「児童クラブ」は働くママ・パパの味方!

児童会館には、共働きやひとり親などで放課後に保護者がいない家庭の子どもを受け入れる「児童クラブ」があります。入会すると有料時間帯(8:00~8:45/18:00~19:00)を利用できるため、フルタイムで働くママ・パパには頼もしいシステムです。
児童クラブに登録していない子はいったん帰宅してから来館してもらっていますが、児童クラブの子どもたちは学校が終わるとまっすぐ児童会館にやってきます。「おかえり!」「ただいま!」と声が響き、まるでおうちに帰ってきたみたい。
まずは宿題に取りかかり、終わるとお友達や職員と一緒に体育室でスポーツをしたり、おもちゃで遊んだり、工作や読書をしたり、のびのび自由に過ごします。帰宅時間はそれぞれの家庭の事情によってまちまち。19時まで延長利用する子は、おやつを食べながらお迎えを待つことができ、児童会館にあらかじめおやつを預けておけます。土曜日は8時から19時まで利用可能。一日中利用する場合はお弁当と、必須ではありませんがおやつ、勉強道具を持参します。
時には遠足などの野外行事でお出かけしたり、他の児童会館と合同イベントを実施することも。最近はコロナ禍で行事ができずにいましたが、緊急事態宣言の解除を待って先日待望の野外行事が実現。感染対策をしっかり行いながら、定山渓自然の村での焚き火体験と北方自然教育園でのりんご狩りを実施し、大いに盛り上がったそうです。
「野外行事は季節を感じる体験や地域との関わりを大切に、体力増進や社会性・協調性の育成につながる企画づくりに配慮しています」と栗田さん。児童会館ごとに行事の内容もさまざまだそうです。
「北東白石は工作活動が人気ですが、私が以前在籍していた児童会館では体を動かすのが好きな子が多く、毎日ドッジボールに熱中していました。地域性や職員の考え方などの特色が表れるのですが、子どもの心と体を育むために愛情たっぷりにアイデアを練っているのはどこも同じです」。

社会の一員としての
子どもの成長をサポートする

児童会館は家庭でも学校でもない第三の居場所。職員の皆さんはただ子どもを預かるだけでなく、小学校と情報共有しながら子どもの心身状態に目配りするとともに、人としての基本的なルールや社会性を身につけてもらうためのさまざまな工夫をしています。
「来館すると子どもの様子をチェックし、職員が一緒に遊びながら一人ひとりに目配りします。元気がない子やひとりぼっちの子がいれば声をかけたり、グループワークを駆使しながら関係づくりをアシスト。乱暴な言動や明らかないじめが認められれば職員が介入して解決にあたりますが、些細なケンカは日常茶飯事。子ども同士で解決するのを見守ります」。
一人っ子も多い昨今、さまざまな年齢の子どもたちが集まる児童会館は貴重な学びの場でもあります。
「北東白石ではランドセルのしまい方や挨拶の仕方などもきちんと指導します。日常生活で守るべき礼儀や習慣を上級生が身につけ、下級生がその背中を見て学び、次の世代へ受け継がれていくんです」。 下級生は上級生の真似をしながら成長し、上級生は下級生に見られている意識を持つことで大人になっていくのですね。

子どもを介して
親のSOSに気づくこともある

ひと昔は、近所のおじさんやおばさんが子どもたちに「いってらっしゃい」「おかえり」と声をかけたり、悪いことをすると叱ることが珍しくありませんでした。親や先生ではない「第三の大人」が子どもを見守り、地域全体で子育てするのが普通だったのです。
しかし地縁が希薄になった現代は、それも難しくなりました。だからこそ児童会館の職員は「第三の大人」として子どもにコミットできる希少な存在といえます。
「子どもたちが親や先生には言えないことを打ち明けてくれることもあるし、私たちが虐待やネグレクトなどの問題に気づけることもある。さらには、子どもを介して保護者の悩みに気づくこともあります。ある時、お迎えに来たお母さんの元気がないことに気づき、声をかけたら泣き出したことがありました。仕事がうまくいかず、相談できる人も親兄弟も近くにおらず、ひとりで悩んでいたそうです。コロナ禍で人との交流を広げることが難しい中、孤立した子育てに悩むひとり親も少なくありません。そんな時にお迎えの短い時間でも職員に話をしてもらえれば、少しは心が軽くなるかもしれないし、必要な機関につなぐお手伝いができるかもしれません」。
児童会館はただ子どもを預かるだけの場所ではありません。親や先生とは異なる視点で子どもを見守り、子どもを介して親のSOSにも目を配る、頼もしい子育てサポーターなんですね。
もちろん児童会館だけですべてカバーできるわけではなく、保護者の協力が欠かせません。家庭と会館の信頼のキャッチボールがあってこそ、子どもがすくすくと成長していきます。
「特に新一年生の親御さんは不安や心配ごとが尽きないはず。どんなことでも気兼ねなく話して欲しいし、どんどん頼ってほしいと思います。そのために私たちがいるのですから」と栗田さん。保育園と違って小学校に入ると親同士のつながりが希薄になりやすい上、コロナ禍でPTAの集まりも減っている昨今。児童会館では孤独に陥りがちな親同士の橋渡しをしたり、必要な情報提供などもしてくれます。「小1の壁」を不安に感じている皆さん、まずはお近くの児童会館に足を運んでみてはいかがでしょうか?(児童会館ごとに特色が異なるので、入会前に見学をお勧めします!)

\栗田さんにこんなことも聞いてみました/

  • Q

    通う前に見学できる?

  • A

    もちろんOK! 0歳から18歳まで誰でも利用できるので、いつでも遊びに来てください。登録申請方法や4月以降の利用方法なども細かくお教えします。

  • Q

    習い事をしている子も利用できますか?

  • A

    習い事が終わってから来てもいいし、いったん来館して習い事に行って戻って来ても構いません。

  • Q

    保育館を卒園後から小学校の入学式まで空白期間があります。児童クラブは小学生にならないと利用できないのでしょうか?

  • A

    4月1日から入学式までの間も受け入れ可能です。保育園の早朝保育や延長保育にあたる時間帯も利用できます。

  • Q

    保育園には慣らし保育がありましたが、児童会館になじめるか心配です。

  • A

    短時間利用から少しずつ慣らしていくこともできますし、新一年生が興味を持って取り組めるプログラムを用意しているので大丈夫!夢中で遊んでいるうちに18時になって「もっと遊びたい!」と言う子がたくさんいます。慣れないうちは不安でいっぱいの子もいますが、職員がちゃんと面倒を見るので安心してください。

  • Q

    夏休みや冬休みなど長期休暇はどのように過ごすのでしょうか?

  • A

    朝から来館して勉強したり遊んだりする子、児童会館主催の体験プログラムに参加する子などさまざまです。家庭の事情や予定などに合わせて利用してください。

  • Q

    みんなどんなおやつを持ってくるの?

  • A

    常温保存できるスナック菓子などが多いですね。おにぎりやパンは……見たことないなあ。バナナも……見たことないなあ。遠足のおやつをイメージしてもらうといいかもしれません。
    ※ガムはご遠慮いただいています。

  • Q

    児童会館と家庭の連絡手段について教えてください。

  • A

    児童クラブに登録すると、連絡帳を利用して出欠確認や子どもの情報共有を行います。子どもの様子が細かく記入されていると、親御さんのあたたかいまなざしが感じられて私たちもほっとします。もちろん電話してもらっても、直接来館していただいてもOKです。

児童会館・ミニ児童会館の概要

開館日時月~土曜日:8:45~18:00
ミニ児童会館は、授業のある日は下校時~18:00
休館日日曜日、祝日、振替休日、年末年始(12月29日~翌年1月3日)
利用料無料
※行事参加の場合、材料費などの実費が必要となる場合があります。
施設所在地 施設一覧:https://www.city.sapporo.jp/kodomo/ikusei/l02_1.html

参考:まちのこそだて研究所gurumi
事前アンケート結果

『「小1の壁」に関する質問・疑問・悩み・意見をお聞かせください』という内容で、2021年10月にWEBアンケートを行いました。回答内容は以下の通りです。

1.「学童保育」に関する質問・疑問・悩み・意見

○未就学
学童保育での過ごし方、友達関係、連絡手段長期休みの過ごし方飲食について”など初めてすぎて疑問点ばかりです。どうやって情報収集すればよいのかわかりません。(年長/30代女性)
不安はたくさんあります。特に、保育園では三時のおやつの時間に補食をしますが、児童会館ではおやつの提供はないと聞きました。しかし小学校の放課後は帰宅時までの時間が長く、育ち盛りの子を抱える身としては少々心配です(我が子は、お腹が減るとかんしゃくが多くなります)。来館している子どもたちの事例などあればお聞かせいただきたいです。(年長/30代女性)
保育園時には慣らし保育がありましたが、学童はそういったような期間は考えていたほうがいいでしょうか?! (年中/30代女性)
自分自身が小学校低学年のときは縁のない言葉で、今も実態がわからない。児童館はあったが、当時はつまらなさそうというイメージだった。(年少/30代女性)
○在学中
息子小1、両親自営業共働き、函館在住です。自宅近辺で仕事をしているので、当初は学童に行かせず様子を見ましたが、親が仕事に集中すると子どもに構うことが難しく、時間を持て余す子どものストレスがひどく、4月半ばに民間の学童にお願いしました。子どもは水を得た魚のようにイキイキと過ごし始めました。全国展開の民間学童だったこともあり、指導員の方の視野も広く、学校とは別視点で親身になって子どもの成長に寄り添ってくれています。学年を越えて活動されているので交友関係も広がりました。また、けん玉や将棋、おはじき等親が教えられない昔の遊びも身につけていて嬉しいです。小学校文化に馴染むことに苦労した我が家にとって、救いの学童です。開設時間が19:00までなので、妹たちの保育園お迎え帰りにお迎えに寄れるのも助かっています。
季節の行事も豊富、宿題を促してくれるので下校してすぐに宿題を終わらせる癖がついた、「おかえり」と迎えてくれる大人がいる。学童は本当に素晴らしいです。感謝しています。(40代女性)

2.「小1の壁」で感じること・感じたことをお聞かせください。

○未就学
就学前健康診断がさっそく平日に入っていて、ワーママには厳しいと思いました。小学校にあがるとこのように平日に親が必要なことが増えてくるのでしょうか・・・(年長/30代女性)
保育園に通園中は「看護休暇」があるが、小学生になるとなくなってしまう。有給休暇がどんどん減っていくにもかかわらず、予防接種などデフォルトの休みの他に平日行事も増えるであろうから、会社を休めるか不安。(年長/30代女性)
保育園のありがたみを感じています。(年中/30代女性)
子どもを産んでから、よく聞く言葉で、かえって不安を煽られる感じがしている。時間割とか、放課後活動など詳細が明確ではないので、今はなんとも言えない。(年少/30代女性)
○在学中
ひらがな、カタカナの読み書きが全くできない状態で入学したので、半年はテストの問題も読めず、音読もついていけず、本人も焦っていた様子でした。その間は親と子の戦いでした。本人が「1年生になってから始めるから幼稚園のうちはやらない」と言い張っていたため、このようなことになってしまいました。(40代女性)
仕事をしながら子どもの小学校入学に付き合うのは、想像以上に大変でした。地域や小学校によって異なるようですが、入学説明会等であらかじめ聞いていたことはまだ良かったものの、入学式に配られたプリントで「明日までに用意してください」と言われたものがあって閉口しました。仕事や他のきょうだいとの関わりもある中で、買い物に行くのも、クーピー1本ずつに記名するのも、時間のやりくりが厳しかったことを覚えています。また、物理的な準備の大変さだけでなく、この半年は心も追いついていなかったと思います。保育園とはまったく異なる小学校文化に馴染むことも一苦労。子どもにとっては今まで「良し」とされていたことを選択すると「良くない」と言われる混乱もあったと思います。また、親に求められることの多さにも驚きました。覚悟が足りなかったのかもしれませんが、想定されているのはきっと専業主婦のお母さん像なんだろうなと何度も思いました。(40代女性)
放課後、大人の目が無いところで 子どもらだけの世界を拡げて遊んで行くことが昔に比べて難しいように思う。(30代女性)

テキスト:佐々木美和 写真:辻田美穂子